スペシャリストよ どこへ行く
いったいあれは何だったのだろう。バブル時代のラッシュの山だ。花の金曜と言われタクシーがつかまらず通称「ハナ金タクシー」と呼ばれた白地に青の増発車。鉄道も右に習えの奇策が取られた。
ラッシュ時の乗り降り時分を稼ごうとドアを増やす、ドアを大きくする、一気に乗ってもらおうと2階建て車を投入する、スタンダードと呼ばれる姿を捨て特異性に走った。各社の独自性が出た。出し抜いた、個性を出した。
そして時代ははじけ、惨敗した。
ドアを大きくしたのは営団と小田急だった。営団05こそ今も生きながらえているが、小田急は座席数が少ないことが苦情原因となり、ドア開口部を狭めあたかも半開き状態となって座席を増やした。口の悪いファンはそれを「だまし絵」と呼んだ。
悲劇は続き4連を6連に改造、あわれ運転台はばっさりと切られた。幸いだったのはその改造が極めて美しく仕上がったということだ。
ドアを増やしたのは営団、東武、JR、京王だった。営団(メトロ)は3を5にしたが結果は正解。東武にもその良さが伝わり仲間も増えた。JRは6ドアがスタンダードになり、採用路線が増えた。
京王は失敗した。4から5という変則型だったので整列乗車が乱れ使いにくい状態になった。5連×4本は2本がほぼ切り刻んだ状態の4ドアへ、2本は4連、6連と組成を直され支線封じ込めになった。そしてその5連もMT比の関係か朝のみ2本繋いで10連でラッシュに入るという限定仕様になってしまった。平成生まれだが意外に短命かもしれない。
2階建てはJRが行った。ライナー用に作られた215系、着座は良かったが乗降であまりに時間が取られるので外された。時期を同じくして湘南新宿ラインができ、新たな職場が見つかった。安住の地を得たかとも思われたが、ここも10月のダイヤ改正で追われる身になってしまった。東海道線に返り咲くのだろうか、一度は不適当の烙印を押された215系、JRもその利用法には手を焼きそうだ。
バブル時に咲いたあだ花となってしまった彼達、姿かたちを変えてけなげに生きつづけるもの、その使用方法に悩まされるものなどスペシャリストの運命は決して明るくない。唯一勝ち残った5ドア、そしてJRの6ドア。5ドアは3ドア兼用になれる器用さが珍重され、6ドアは1両だけという限定仕様にJRならではの「全編成入れる」という統一性、そして私鉄にない乗客絶対数の大きさである。
スペシャリストは基本ができていないとその場、その時代しか生き残れないのだろう。もしくは天職といわれる職場にめぐり合ったときに輝くのだろう。基本はまだしもスペシャリストを生かす天職と言われる職場、今の日本では探すことすら徒労に終わってしまうほど難しいことであろう。
スペシャリストよ どこへ行くんだ!
まもなくこの地を去ってしまうJRのスペシャリスト215系。JRグループ内でも珍車中の珍車だ。渋谷にて
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コメント
215、中央線沿線でも週末を中心によく見かけましたが、乗ったことありません。グリーン車も付いているのですよね。
第三の職場は臨時でしょうか。
メカニズム的にも、VVVFではないのに4M6Tなんでしたっけ。面白いですね。
Primera
投稿: primera | 2004.09.18 15:46
コメントありがとうございます。「新鮮 やまなし号」だったと思います。
確かにこの電車4M6TというすさまじいMT比です。まさに日本のTGV。韓国のTGV(KTX)は2M18Tという構成のようです。
投稿: SATO | 2004.09.18 20:37
通勤輸送の改善については、現在も模索が続くわけですが、各社各様、さまざまな試行錯誤が見られたのがこの10年ほどだったといえます。
小田急のワイドドア車と京王の5扉車はほぼ同時期だったこともあり、よく比較されました。いずれもラッシュの混雑で特に駅での乗降時間が延びて過密ダイヤ維持が難しい状況に対する緊急避難だったといえます。
結果的に改造を受けたりして「失敗」の評価を下されることが多いように思いますが、この10年の社会情勢の変化も見逃せません。就業就学人口の増加が止まり、戦線開発も一段落、企業のフレックスタイム制や派遣社員の増加など雇用形態の多様化もあって、ピーク輸送の負荷がやや緩和してきたことで、逆に規格外の使いにくさが表面化したものといえます。
特に京王線の5扉車については、以前仙川に住んでいて、ホームで待っていてコレが来るとがっかりしたものですが^_^;、運用数の多い各停に混ぜ込むことで、遭遇する確率自体低かったことと、少座席でも乗車時間が短いので気にならないなど、乗客の立場からはさほど気にならないものでした。
むしろ非冷房時代の京急700形の12連特急の方が「ご愁傷様」^_^;な感じです。
投稿: 走ルンです | 2004.09.20 10:51